「どうした!」
「いてー! 膝が、俺の膝にナイフが!」
「畜生! テメエ、何をしやがった!」

 一際大柄な男が俺を睨みつけて大声を上げると同時に、背後から複数の人間が駆け寄る音が響いた。

「バカが! スラム街をなめすぎなんだよ!」
「嬢ちゃんに傷を付けるなよ!」
「兄ちゃん、てめえは手足の一、二本は覚悟しな!」
「たっくん、後ろよ」

 男の得意げな声とユリアーナの落ち着いた声とが重なった。

「問題ない」

 俺は身体を九十度捻ると、右手側から迫る四人を視界に収めると同時に錬金工房へと収納する。

 傍目には路地から飛びだしてくる寸前で四人の男たちが忽然(こつぜん)と消えたように映ったことだろう。
 勢いよく迫る五人の男たちの動きが止まった。

「てめえ、何をしやがった……」
「何で……?」
「消えちまった、だと……?」
「魔術師かよ……」

 警戒と畏怖のない交ぜとなった眼差しが俺に向けられた。

「どうした? 掛かってこないのか?」

 挑発するように武器も持たずに両手を広げてみせる。

「後ろのヤツらに何をした?」
「後ろのヤツら? なあ、後ろに誰かいたか?」

 俺はわざと隙を見せるようにユリアーナを振り返って訊くと、

「さあ? どうだったかしら?」

 愛らしい笑顔が返ってきた。