「へー、これだけ広範囲の空間を一気に収納できるんだ。ここから端まで三百メートルくらいありそうね」

 ユリアーナが錬金工房の収納限界距離や効果範囲に関する情報を更新したようだ。

「これが第一段階、続いて第二段階だ」

 錬金工房内に取り込んだ石や岩をレンガ程の大きさに成型し、敷地を格子状に区分けして作業用の通路を造成した。

 成型した石や岩を利用して、縦四区画、横五区画の二十区画で、格子状に区分されるように元の地表の高さまでの石の壁を造成した。
 壁の幅は一メートル。

「第二段階の終了だ」

 続いて第三段階に移る。
 各区画を森の中で収納した土や腐葉土で埋めていく。
 こげ茶色の畑に格子状に走る、石で出来た白い通路が柔らかい陽光を淡く反射していた。

「これで第三段階が終了。そして取り敢えず畑ができたわけだ」

 振り返ると、ユリアーナを除く全員がかつて裏庭だった場所を放心したように眺めていた。

 子どもたちの眼前には二十区画に整然と区分けされた畑が広がり、石の壁はくぼ地に土が入れられることで作業用の通路となっていた。

「……凄い、……お兄ちゃん、凄い!」

 静寂を打ち破ったのは五、六歳の少女。

「これ、畑だよね……?」
「俺、こんなの初めて見た!」
「魔法で畑を作った……」

 幼い子どもたちほど我に返るのが早いようだ。

 驚きと称賛の声は次第に年長者へと伝染していく。そしてその驚きと称賛は『次は何をするのだ?』という期待と憧憬の念へと変わる。
 年長者は自主的に口をつぐみ、年少者は周囲の雰囲気にのまれて押し黙った。

「あんまり期待するなよ、次の作業は大したことないんだからさ」
「え、そうなの?」

 錬金工房内で強化ガラスを錬成しながら言うと、目をキラキラと輝かせた少女が少しだけ残念そうな表情をさせた。