巨大な影が動き樹木が折れる乾いた音が辺りに響いた。名も知らぬ鳥が飛び立ち力のない小動物が算を乱して逃げだす。
 
 距離にして二百メートル。
 樹々の間から姿を現したのは巨大な黒毛のクマのような猛獣。その鋭い眼光が真っ先に捉えたのはゴスロリに身を包んだ十二、三歳のたおやかな少女。
 次いで学生服を着た十五、六歳の端正な容貌の少年に視線が移る。

「魔物?」
「魔物じゃないわ。普通に猛獣よ」

 少女のささやくような声援に少年が無意識に後退る。

「いやいや、無理だろ。動物園で見たヒグマの三倍はあるぞ、あれ。だいたい武器の一つもないのにどうやって戦うんだよ」

 クマに襲われたジープが容易く破壊されるニュース映像が少年の脳裏をよぎる。

「錬金工房で武器は作れないの?」
「無理だ。使い方が分からない」

 心臓を鷲掴みにされたような息苦しさをと恐怖が少年を襲う。

「魔力で身体強化を図りましょう。武器はその辺の岩で大丈夫なんじゃないかしら? あ、怪我しても光魔法で治してあげるから安心して」
「属性魔法が使えるって言ったよな? 魔法でチャチャっと片付けられないのか?」