想像もしていなかった。
誰かを傷つけたいとも、まして殺したいとも思ったことない。そんな悲しみ、感じたこともない。
彼はいつから…ずっと、ずっと、ひとりで考えて、そんなものを忍ばせていたんだ。
「晴臣先輩、どうしてお母さんの絵、わたしを連れて見に行ったんですか?」
ひとりじゃできない。
ひとりじゃ立っていられない。
それでもひとりで、遂げようとしている。
「ひとりじゃ、結局見に行けそうになかったから。…槙野なら、ただ隣にいてくれると思って…」
頰を伝いつづける彼の涙に心臓がぎゅっとせまくなる。
好きだという想いが込み上げてくる。
「それって…要らなくないですよね」
「……」
「わたしのこと要りますよね?」
ぐっと近くと、彼の顔が赤く染まった。
視界が歪む。瞳に薄い膜ができて、まばたきをすると落っこちる。わたしはいつからこんなに泣き虫になったんだろう。
「晴臣先輩、好きです」
お願い。お願い。
「大好きです。……晴臣先輩は?」
所詮は自分の気持ちが大切なんだ。人間ってしょうもなくて、どうしようもない。
晴臣先輩を支えたいとか守りたいとか、自分が良く思われたいからなんじゃないか。
彼の気持ちは何も理解してない。
強引に、強引に…そうすればわたしのほうを向いてもらえるんじゃないかって。