「槙野!」
高藪くんの声にそっと振り向く。
「本当は見失ってもいいんだと思う」
投げかけられた言葉に強く頷いて、されるがままの晴臣先輩を音楽室から連れ出した。
学園祭はにぎわっていてゆっくり話せる場所がひとつしか見当たらなかった。わたしの教室。準備の片付けはままならないけど空き部屋になっている。
中に入るとペンキの匂いがしたから窓を開けた。
「…なんなんだよ。関わるなって言ってんのに」
涙目なのに怒ったような声。
晴臣先輩を見上げると胸ぐらを引っ張られた。
「あんたを傷つけることなんて簡単なんだよ。殴って蹴って無理やりヤッて、おれに絶望してくれるなら行動に移してやろうか」
「何をされても絶望しません…っ」
「だから…自分を大事にしろって言ってんの」
「だって、そんなふうに俯いて隠そうって必死になってそれでも泣く人……自分のこと大事にしてないに決まってる。だからわたしはいいんです。誰に何を言われても、晴臣先輩に要らないって言われても、何されても。でもそれをして晴臣先輩が自分を責めるなら嫌」
手が離れる。息を吐かれた。
あきれてる?嫌がってる?しつこいよね。
「………父親のこと殺したいんだよ」
え?
彼はブレザーのポケットから刃物を取り出した。
「おれの手でこの世から消したい。それが生きる意味で、それ以外は必要ない」
真っ直ぐで真剣なまなざし。
わたしが知りたかったこと。