おもしろいねとか緊張させたか問いかけてくるわりに笑っていない気がする。口元だけは緩んでいるけど怒っているのかもしれない。

でも、だとしたら、なんで怒るの。この人がわたしの気持ちが解らないようにわたしだって不良の先輩の気持ちなんて解らないよ。


「べつに盗んだわけじゃないんだから怒らなくてもいいじゃないですか…」

「え?」

「だいたい、だったら久遠先輩が取りに来ればよかったと思うんです。来るかもしれないって体育祭の後も校舎内で待ってたんですよ。次の日からもしばらくずっと持ってて…いつでも返せるようにって…困るといけないから…」


口ごたえをしていることに途中で気づいて声がだんだんしぼんでいく。


よけいに怒られるかもしれない。こわい。

だけど体育祭の日、理由をこじつけながら本当にずっと待ってたの。保健委員を手伝って、実行委員の後片付けを最後まで手伝って、日が暮れても待っていた。

もう少し話せるかもって、なぜだか何かの期待していた。


でも結局この人が戻ってくることはなかった。それからも何日もわたしのところに置き去りにしたままで。

期待を裏切られた気持ちになったんだよ。なんて、不良じゃなく年上でもなく自分のことなのに、このもやもやの正体はよく解らないや。