「ヤマ。おれのこと嗅ぎ回るんじゃねーよ」


通る声に呼ばれてヤマ先輩は振り返った。ドアの前に立つ晴臣先輩を見て、なんだか泣きたい気持ちになる。


「なーおみ、この子と付き合っていい?」

「おれに聞くなよ。槙野がいいならいーんじゃねえの」


いやいや、良くない。

首を横に振って訴えると彼は少し笑った。


「よくないってよ。フラれたなあ、ヤマ」

「あーあ、なんでもいいからおみに勝ちてぇ」


何それ。弱味を握っても、わたしと付き合っても、晴臣先輩に勝つとか敗けるとかになるの?

そんなことで彼を傷つけてるの?

彼に淋しい思いをさせているの?


「つーわけでその手離せ。触んな。おまえみたいなのが触っていーようなやつじゃないから。こいつに一生関わるな」


ヤマ先輩の手をわたしから退かす。


ふてくされたような態度で立ち去るヤマ先輩を見て許せない気持ちで頭がいっぱいになる。

そんななかで晴臣先輩がなぜか肩を払うように触れてきた。さっきまで別の人が触ってたところ。



「くだらねーことに巻き込まれてんなよ。簡単に絡まれんな。ああいうの無視していいから」


晴臣先輩の顔が感情の読み取れない表情をつくる。


「晴臣先輩、あの人、何…?」



心配だよ。無視なんてできないよ。



「何かによっては、全然くだらなくないです」

「何でもねーよ。ヤマはべつに害ないから気にすんな。おれに関わるな。あいつらにもあんたは関係ないこと言っとくから」

「関係ないなら…関係持ちたいです」


晴臣先輩しか見えてなかった。

好きだった。


「槙野との関係は要らないから作らない」


拒絶されたとしても。