「……ずかずか聞いてしまって、ごめんなさい。…答えてくれてありがとう」

「ああ、ぜんぜん。平気だよ。あの先輩の家庭環境も複雑って話あるよな。お母さんが若いとか、束縛がひどいとか」


晴臣先輩のことを考えていたことはバレていた。

していた作業をさりげなく手伝ってくれる。高藪くんは本当にいい人だなあ。それにこの間も先輩に告白されていたみたいだ。クールに見えるけど気さくで話しやすい。


「そんなこともうわさになってたんだね。知らなかったなあ…」


知っていればうまく立ち回れたんじゃないかな。


「お父さんはこの学校の理事長だし、家も政治を動かせるくらい大手企業らしいよ」

「え!理事長!?」


知らなかった。理事長は何度か集会で見たことある。言われてみれば面影がないことはないけど…。


「さすがにそれまで知らないことは驚くよ…槙野って他人に興味ないよな」

「そんな、人を冷たい人間みたいに言わないでよ」


「ははっ。でも褒めてるんだよ。槙野のさ、人に流されないで自分の見たもの聞いたものだけ信じるって性格、けっこう好きだよ」



思わず持っていた絵の具と筆を落としてしまった。



「ぼんやりしすぎ」


何食わぬ顔で拾ってくれる。


「いや……すみません」


だってふわふわって笑いながら、…好きだよなんて言うんだもん。

心臓が皮膚の内側で跳ねている。