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羽田晴瀬は日本の画家だった。美術を専門的に習った経験はないみたい。女性。2年前に結婚。生存はしているが──── 6年前に自殺未遂をして記憶が一部欠落していることを公表している。
調べてわかったこと。
晴臣先輩の情報は全くなかった。
彼女の絵に度々出てくる幼い男の子は、彼女曰く『思い出せない記憶の一部。夢や幻の類かもしれない』とインタビューで答えている。
晴臣先輩。
どんな思いであの絵を見に行ったの。
どうして見に行ったの。
夢や幻に喩えられた彼の存在。
わたしは、何もできなかったよ。
「考え事?」
教室の隅で学園祭の準備を黙々としていると高藪くんに話しかけられた。
舞菜は野須くんと買い出しに行っている。
傍にしゃがみ込んだ高藪くんを見て、あ、彼のことを考えてたなと気づく。
「高藪くんの家族はどんな?」
「何、急に。考え事に役立つこと?」
唐突な問いかけ。わたしも晴臣先輩に聞かれたときこんな表情をしていたかも。
「うん…たぶん。家族ってなんだろうって思って…」
晴臣先輩のつらいことに、触れてしまった。
何かできるかもなんておこがましいことは考えていないけど、このまま何も言えないのは悲しいから嫌なの。
「俺の家は父子家庭。兄と姉と妹がひとりずついるよ。母さんは妹を産んですぐに出てったからよく覚えてなくて、姉さんが母親代わり」
失敗した。