繋がれた手をぎゅっと握る。
「捨てられたって……それは?」
「違うと思う。だけどこの人はおれの手を引いて、すでにあの人と結婚していた父親のところに連れて行った」
「…そう」
「おれを育てなきゃならなくなったからあの人は壊れたんだ」
「晴臣先輩のせいじゃ…」
「父親はあの人を愛してない。家に無理に結婚させられたって思ってる。それにあの人は子供が産めない体みたいで……孤独が、手に取るようにわかるんだ」
あの人、この人。まるで他人のように自分のお母さんの話をする。
父親、と言う時、声に温度がなくなる。
味方になるとか守るとか、きっと言っちゃいけなかった。
「だから、抱くの?」
「……」
「希雨さんって人も、他の女の人も…頼まれたから、かわいそうだから、切ないから、自分を…求めてきてくれたから……?」
責めたくなる。
だって、それなら晴臣先輩の気持ちはどこにあるの。
見ないふりしないで。
自分で捨てないで。
本当は自分で守らないと、誰も守ってくれないんだよ。
言えない言葉を飲み込む。
答えてくれないまま晴臣先輩は見透かすように微笑った。
「わたし…っ」
「──── 帰ろう。付き合ってくれてありがとう」
言葉は遮られ、手と手が離れる。
「槙野と見れてよかったよ」
「それは…本当によかったです」
わたしは涙を我慢するのに必死だった。
もう一度手を繋ぐ勇気は、悲しいくらい、なかった。