しばらくするとホールの入り口に車が停まって、中からスーツを着た男性が2人出てきた。晴臣先輩と少し会話し、いつのまにか眠ってしまっていたあの女性を車に乗せて去っていく。


わたしは黙っていることがどうしてもできなかった。



「晴臣先輩は……あの女性に…お父さんに……傷つけられているんですか…?」


何も知らない。

頭の中に広がる予測。

それに勝手に泣きそうになる。


「あんたまで泣くなよ。面倒だから」

「…わかってますよ」

「……傷つけられてなんかねえよ。被害者面できない。あの人のこと何度か抱いて慰めてるから」


聞きたくない。そう耳を閉じたくなる。だけどきっと彼は閉じたい目をそれでも開けて、どうしたら正解なのかもわからないままその方法であの人を支えてきたんだ。

それを、話を、聞いてあげる誰かが、彼には必要なんだ。

そしてわたしは、その役目になろうとしてる。


彼の本意か本意じゃないのかはわからないけど、この耳をつまらない嫉妬や怒りで閉じちゃいけない。


「父親とこの絵を描いた人は、結婚はしてなくてさ。おれのことは勝手にこの人が産んで、婚約者のあの人がいた父親はずっとおれの存在は知らなかったんだよね」


優しい家族しか知らない。わたしにとって、傍にいることが当たり前の存在だった。

彼にとってはそうじゃなかった。