コレ、と掲げられたのは憧れていて、好きで、お年玉で初めて買えたブランドショップの紙ぶくろ。わたしのとっておき。昨日真波先生に渡したもの。
受け取ったみたいで彼が今は持っている。
返却して終了。そのはずがどうして下級生の教室に入ってきて目の前にいるの?
まぶしかった体育祭での姿を思い出して、なぜか体温が上昇していく。
「やっぱりそうだ。なんで返しに来てくれなかったの?」
どうやら真波先生を通して手元に戻したことについて気に入らなかったようだ。
「えっと…上級生と話したことがなくて、うまく返せなそうだったので…ごめんなさい」
声が震えそう。ちょっとこわい。髪が茶色いだけで、制服が着崩されているだけで、ぜんぜん違う生き物みたいに感じてしまう。
これが先輩。でもバスケ部の先輩たちとは違う。そっか、これが不良なんだ。
悪いことをする人なのかな。…校則違反は悪いことか。
「こんなTシャツ返すだけのことに上手い下手ってある?おもしろいね。緊張させた?」
緊張しないわけないじゃない。この人は仲の良い不良のセンパイがいるようだからわたしの気持ちなんて解らないだろうけど。
思えば最初から、全く別の場所で生きてる人だった。
それに近づいたのは、おそらくわたしのほう。