まるで子供のように癇癪に似た泣き方をする若い大人。


思わず晴臣先輩の手をぎゅっと包む。

僕とか、敬語とか、似合わない。



「…父さんは?一人で外出したんですか。お身体に触りますよ」

「晴臣くんはいつまでもこの絵描きのことばっかり!何がいいの?自分を捨てた人じゃないっ。私の方が…私の方が頑張っているのに!あなたのこと、思っているのに…!」


状況が理解できない。だけど小さい頃の晴臣先輩の絵の前でこんなことになりたくなかったな、と思う。


やがて彼女はわたしを見つけた。

瞳が鋭く尖る。


「何この女の子…晴臣くんの彼女?ねえどうして教えてくれないの?何で何も話してくれないの?私はそんなに頼りない?私のことは特別にしてくれないのに…ッ、ねえ……晴臣くんもあの人も…どうして……」

「希雨さん…帰りましょう」


青にも見える白い肌を滑る涙を拭う彼の指。

ねえ、その人。晴臣先輩のこと、もしかして。


会話と見え隠れする感情がちぐはぐだ。


晴臣先輩はパニックを起こす女性の華奢な肩を抱えながら誰かに電話をしていた。それが終わると、震える手ですがるようにわたしの手を握った。

熱を感じない。

滲み出る嫌悪感と、見えない絶望と、のしかかる孤独と痛みと責任。

それをなんとなく、感じてしまった。

勝手にやめろって言われるかもしれないけど。