いつもどこか暗い瞳が、今は色づいている。

彼にとってどういう場所なんだろう。どんな関係なんだろう。ただ好きなだけ?

やっぱり聞くことができない疑問は、ある空間の絵を見てなんとなく感じとることができた。


壁一面の大きな風景画。

濃い木目の額に入っている。


大自然の緑と空の青を飛ぶ3羽の鳥。

その鳥を追いかけるかのように走る男の子。


その向かいに今度は小さな額がみっつ続いていた。


丸い後頭部。

柔らかな横顔。

そして晴れやかな幼い笑顔。



「────…… 晴臣先輩だ…」



鉛筆の淡い輪郭線に、頰と髪だけ色がつけられている。髪は今の彼と同じ茶色に緑が混ざっていた。


「…なんでわかんの。おれの小さい頃の写真とか見たことあったっけ」

「あるわけないじゃないですか…見たいですけど。わかりますよ。笑ってる顔が今と同じです」


年齢に不釣り合いなくらい大人みたいに綺麗に笑うの。

絵から伝わってくるどこか優しい思い。


「もしかして、これ、晴臣先輩のご家族が描かれてるんですか?」


あたたかなまなざしが見た彼の小さな頃の姿。


「……そ。おれを産んだほうの母親」


わたしは彼のことを何も知らない。
それが淋しくて、だけどどこかで安心していた。

知っても、何も言えない気がしていたんだ。

だってあまりにも違うから。

わたしの知らない感情を、経験を、この人は持ってるだろうから。