この人は自分の行動でわたしの感情が決まることをわかっていない。

繋がったままの手をちょっとだけ握る。


「学園祭の準備してる?」


晴臣先輩の手、広いのね。

いつも態度は冷たいのに、あたたかな温度。


「はい。実行委員になりました」

「ふーん。えらいじゃんね。出し物は?」

「校庭に巨大迷路をつくります」

「へー。大変そう」


ずっと話したかった。会いたかった。


「晴臣先輩のクラスは?」

「仮装音楽喫茶。和菓子ばっかだよ」


仮装するんだ。音楽と混ぜるんだ。楽しそうだし、仮装してるところは見に行きたいなあ。


「…こういう話、佐伯さんとはしないんですか」


聞かなければよかった。離された手が名残惜しくて、すぐに後悔した。



「べつに。興味ないから」


何それ。
彼女なのに。
付き合っているのに。

彼女と同じクラスのわたしには聞いてくるなんて、本当にずるい。

そんな、そのくらいなら、…別れちゃえばいいのに。


「そうですか」

「なあ、ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど門限何時?」


ポケット灰皿に吸い殻を入れる。何言ってるんだろうこの人。

蛙の時より驚いてるよ。


「20時までには…連絡もしないと」

「19時半には帰すから連絡しておいて」


何考えてるの。どこに行くの。

そんなことどうでもよかった。晴臣先輩と一緒にいられる。初めて頼みごとをされた。

そのことがうれしすぎて。