だけど彼はやっぱり突然な人だった。
ピアノのレッスンを終えてガゼボのある公園の横を通っていると「槙野ー」と柔らかな声に呼ばれた。
振り返ると肩に何かが飛んでくる。びっくりしてしりもちをつくわたしを晴臣先輩は煙草を吸いながらくつくつ肩を揺らして笑う。
久しぶりに会う彼の姿に何も言えずにいると、飛んできた何かが「ゲコッ」と違和感のある音を鳴らす。
見ると目が合う。菜種油色の蛙。…蛙?
「わっ……びっくりした!なんだ蛙かあ」
肩から手のひらにのせる。小さい。最近雨降りの日が多かったもんね。
「しっかり生きろよ」なんて言って放してあげると蛙は跳ねながら落ち葉の中へ消えていった。
「なんだ。もっとこわがるかと思った」
「わたしは弱いところありませんからね」
「…嘘。槙野はべつに平気で触るんだろうって思ってたよ」
そうなんだ。蛙触ったの初めてだったし本当にびっくりしてはいたんだけど。
でも晴臣先輩が楽しそうに笑っているからなんでもいいや。差し出された手を掴んで起こしてもらう。…優しくしないで。
「ピアノ帰り?」
「あ、はい」
「手が冷たいもんな」
たしかに体温が鍵盤に奪われたりするけど…もう起き上がれているのに離してくれない。
心臓がせわしなく動く。