次の日は昨日のようにバイクの音はしないまま、平凡な時間になるはずだった。
舞菜とひとつの机を分け合ってお弁当を広げる。これもいつものことで、おかずをひとつ交換することもいつものこと。
くるくると表情を変えながら明るく話す彼女に相づちをうつこの時間が気に入っている。
「槙野、次実験の準備頼まれたから少し早めに食える?」
クラスメイトの高藪 鈴央くんとは同じ理科係でこうして度々話しかけられたり、話しかけたりする仲だ。
「わかっ───」
「待って。きみ、槙野陽花里だよね?」
会話を遮る突然の声に顔を上げると、想定していなかった人物が教室のドアに寄りかかりながら立っていた。
久遠晴臣先輩。
わたしを呼んだ?聞き間違い?びっくりして返事もままならないくせに、言葉遣いは悪くなさそうだなあとか、やっぱり少し高めの声色だなあとか、背はあまり高くないんだなあとか、髪が透き通るようで綺麗だとか、瞳が笑わないまま水面みたいに光っているなあとか……そんなどうでもいいことをぼんやり思う。
「あれ違った?確か黒髪で、髪を綺麗に繕ってて、色白な子に体育祭でコレ預かってもらった気がしたんだけど」
そう言われてはっと立ち上がる。わたし、呼ばれているらしい。