また雨だ、とさっきまで降っていなかったそれを見て思った。下駄箱で靴に履き替えたところで傘を持ってきてなかったことに気づく。
やむまで待つか、走って帰るか。帰れないこともないけど…と迷っていると、佐伯さんが横を通った。彼女の綺麗に巻かれた長い髪の先が宙で泳ぐ。
おもむろに顔を上げると、外を見ながら壁に寄りかかる晴臣先輩の姿があった。
佐伯さんが彼の腕に自分のそれを絡める。
なめらかなやりとりに、見とれてしまうみたいに目が離せずにいた。
彼女はわたしをちらりと見たあと、少し笑って雨の中に消えていく。
高藪くんと話した時は前向きな気持ちになれたのに。
やっぱり目の当たりにすると、どうしようもなくつらいよ。
いつの間にか握りしめていた拳で目元を拭う。
泣いちゃだめ。泣いてもどうしようもない。あの人にとってはわたしの気持ちなんて関係ない。でも泣けてくる。悲しい。
濡れて帰ろう、と一歩進んだところで見覚えのある色のスニーカーが視界に入った。
顔を上げると、晴臣先輩。少し離れた場所にひとりでいる。
その手から弧を描いて何かが飛んできたから間一髪でキャッチした。
「さすがバスケ部」
それだけつぶやいて、また彼は行ってしまった。
もう元・バスケ部だよ。だから急に投げられても、優しくされても、困るよ。
届いたのは彼が差していたはずの湿った黒い折りたたみ傘。