「うん。前は稲場といる時だけ表情が動くイメージだったけど、あの先輩を見つけるとすごいうれしそうに笑ってたし、悲しい顔もするし、感情豊かになったんじゃない?」
あからさまに不安が顔に出てしまったみたい。高藪くんはけらけらと笑ってくる。そっちだって普段クールなくせに意外とよく笑うよね。部活の時はちょっと熱いよね。
松渕さんとの恋がうまくいってほしいなあと思う。
「…ありがとう」
「何が?」
「晴臣先輩が好きだって言うとたいていやめたほうがいいとか、晴臣先輩が悪く言われたりしてきたから…でも高藪くんはいつも肯定してくれる」
「仕方ないよな。そうやめられるもんじゃないし」
優しいひとだなあ。
頷くと彼は満足そうにして、また手際よく実験の準備を進めはじめた。
たしかになあって思う。
恋をして、誰かに対して一喜一憂することを知った。こうされたら悲しいとか、ばったり会えたらうれしいとか、酷く言われていたら庇いたくなるとか、傷を見たらこっちも痛くなるとか。
そんなこと知らなかった。
失恋しちゃったけど、知れて良かったって思うよ。
そんなわたしの想いに気づいてくれていた誰かがいたことに、救われたような気分になる。
この気持ちは間違いじゃなかった。
正解なんてきっとないんだ。