松渕さんが悪いわけじゃないのに、今の態度は最悪だよ。
自己嫌悪していると、突然耳にイヤホンが差し込まれた。何事かと周りを見渡すと、高藪くんが前の席に座った。
まるで視界を遮ってくれるみたい。
イヤホンからは流行りのバンド曲が流れてきて佐伯さんたちの会話が聞こえなくなった。
「…ありがとう」
つぶやくと、文庫本を開いていた高藪くんの口元が「いーえ」と動く。本当にありがたかった。このままじゃ嫌なのに泣いてたよ。
晴臣先輩に会いたい。
こんな時でさえそう思う。
どうかしてる。
こんなことなら舞菜に忠告された時にやめちゃえばよかった。そうしたらこんなに悲しい気持ちにならずにすんだのに。
「そんなもんでしょ」
理科係の仕事があったから今朝のお礼とともに恋に対して愚痴をこぼすと高藪くんはちょっと笑ってそう返してきた。
「えええ……わたしは恋愛ってもっと楽しいと思ってたよ」
いいよねきみは先日した席替えで松渕さんの隣を引き当てたんだもの。たくさん話してること知ってるんだよ。
「楽しかったかはよく知らないけど、体育祭以降、槙野はなんか変わったと思うよ」
「変わった?」
悪いほうにだったらどうしよう。いつものごとく晴臣先輩が責められちゃう。