期待していたわけじゃない。自分が特別になったなんて思ってない。

だけどやっぱり、正直に言うと悔しかった。



「佐伯さん、あのおみ先輩と付き合いはじめたの!?」


教室はそんな話題で持ちきりだ。

さすがの舞菜も落ち着かない視線を向けてくるだけで話しかけてはこなくて、前の方で繰り広げられる会話が否応なしに耳に入ってくる。

佐伯さん。クラスのリーダーみたいな子。派手だけどすごく可愛くて、髪色も晴臣先輩と似ている。緑がかかった茶色のそれは、はっきり言って目ざわりだった。


「ずっと憧れてて、仲良くなった先輩に仲をとりもってもらったの。ちょー幸せ!」

「いいなあ。かっこいいもんね」

「でもちょっと近づき難くない?」


そんなことないよ。


「そこがいいの!周りと馴れ合わない感じ、かっこよくない?」


そんなことないのに。


周りと馴れ合うのが得意な彼女から見た晴臣先輩は、わたしから見える彼と違った。

だからかな。だからあの子を彼女にしたのかな。

佐伯さんが見ている彼が本物だからなのかな。


泣きそう。でも絶対に泣きたくない。

まさかこんなふうに失恋するとは思わなかった。

舞菜、こういう時こそマシンガントークしてほしいよ。わたしは足が鉛みたいに重たくて立ち上がれない。


幸せそうにはしゃぐ佐伯さん。

何故かその隣で悲しげな顔をする松渕さんと目が合って、思わず反らした。