ショパンやシューマン、ドヴォルザーク。迷ったけれど、リストのコンソレーション第3番を披露した。きっと聴いたことくらいあると思う。
なめらかな音の羅列を、自分なりの解釈で抑揚をつけていく。プロを目指してるわけではないからわりと自由にアレンジしてしまうけどそれが好き。
この曲はわたしの片想いを慰めてくれるみたい。
傷だらけのきみを慰めたかったのに、自分本位でごめんね。
弾き終わって後ろを見ると、彼はソファの上で縮まるように眠っていた。
背は高いほうじゃないけど、こんなに小さかった?
震えている。寒いのか、それとも別の理由なのか。
しゃがみ込んで寝顔を覗く。
目の下の深いくま。
頰や目元口元ににじむ赤色。
手の甲の骨にできた傷。
彼をこんなふうにするのは、いったい何?
頰に手を置くと長いまつげが震えて、黒い瞳が姿を現した。
「あ……ごめ、」
離れようとしたら手を掴まれた。
「…子守唄みたいだな」
「え…」
「音が、綺麗で」
そんなふうに言われてうれしくない人はいないんじゃないかな。
心臓が跳ねる。わたしを掴んで離さない。
思わず髪を撫でるとくすぐったそうな顔をした。
「晴臣先輩…学校、来てください」
「…」
「わたしが、守りますから」