ピアノをするしないは関係なかったけど、真波先生にあんなことを言われて心が離れて行くのを感じた。
それなら無理に続けなくていいと思った。
ただそれだけで、晴臣先輩のせいなんてこれっぽちもない。
「…ならいいけど」
「晴臣先輩は何部なんですか?入部必須ですよね?」
以前答えてくれなかった気になっていたことを聞くと彼は恥じらうようにそっぽを向いた。
初めて見る反応に気持ちが躍る。なんて可愛らしい。好き。
「教えてください」
「……部」
「え、もう一度お願いします」
「だから、コラム部だっつの」
コラム部…?と首をかしげる。そんな部活あったっけ。
「おれの話はもういいから」
「えー。もっとたくさん知りたいのに!」
「知らなくていいよ。部活なんてほぼ行ってねえし」
そりゃ学校にも来てないもの。淋しいからやめてほしいけど、さすがにそこまで口出しできない。
「それより早く弾いて。槙野のピアノ、もっと聴きたい」
ピアノを顎で差す。雑な仕草。だけどうれしい言葉だった。
あたたかなものが身体中に広がる。
どんなに否定されても周りに何か言われても、この人を好きになってよかった。幸せだって、初めて思った。
そんな気持ちを込めて、一番好きな曲を披露した。