心臓がどきどきしている。危険な存在だということは一目でわかる。
近づかない方がいいし、もともとそんな勇気ない。
「このTシャツ…どうしようかなあ」
取りに来てくれる気配もなさそうだ。
「先生に預ければ?確か真波先生が副担任のクラスだったと思うよ」
さすが。とても詳しい。
真波先生はわたしが所属しているバスケ部の顧問。頼みやすくてよかった。
その日の放課後、部活が終わってすぐに紙ぶくろを先生に渡した。返しておいてもらうように頼むと「めずらしい」と可愛い顔で言った。
「久遠くんって人に物を頼むってことほとんどしないんだよー。きっと槙野さんが話しかけやすかったのね。返しとくから安心して」
あの時たまたま近くにいたのがわたしだっただけだと思うんだけどなあ。
新米で若い真波先生は気さくで話しやすい。彼の性格を話すその口ぶりから、不良と教師という間柄でも今朝みたいな空気ではなく普通に話せる様子が伝わる。
あの人の副担任が真波先生で良かった、となんとなく思う。
これでもうあの人とわたしを繋ぐものはない。むしろあんな一瞬の出来事、繋がりとも言えないだろう。彼だって忘れてるから取りにこなかったんだ。そう思っていた。