ピアノは3歳の頃から習っていた。中学に上がる時に必ず部活動に入らなければいけない校則があったからバスケをはじめたけど両立が難しくて離れてしまった。
そのブランクを取り戻すために今は必死だったりする。
だけど自分の指先から音が生まれる高揚感や頭の中で歌い出すおたまじゃくしは、ピアノは好きだって改めて実感させるのに充分すぎるくらい。
きっとこのままバスケ部は辞めるから、別の部活に入らないと。
そういえば晴臣先輩は何部なんだろう。
受験生だけど進路は決まってるのかな。
どっちも結局教えてもらえなかった。わたしは彼のことよく知らない。
不思議だよね。それなのに、こんなに大切に想っている。
「……槙野、?」
ガゼボのある公園に向かっていると雨音に混ざって聴こえた、好きな人の声。あのスニーカーが見えた。
傘を上げると晴臣先輩は雨にうたれながらそこにいた。
「か…風邪ひきますよ!」
駆け寄ると煙草と一緒に鈍い鉄のような香り。
差し出した傘の中で見たのは、顔や首を傷だらけにした姿。
「………ッ」
突然すぎるよ。言葉が出ない。
人の血なんてそうそう見る機会がなかったから。痛々しい。泣きそうになって、思わず目をそらした。
びしょ濡れになって、何してるの。
俯いた先に血みどろの手の甲。
どうして。