そう思っていると、喉を鳴らすような笑い声が聴こえた。
「タッパーって!あ、でも蓋がピンクだから一応可愛いのか」
なんて言いながら唯一の可愛いさを剥がすように取る。おそるおそる手を伸ばすと意思が届いたのか受け取って蓋だけ返された。
ピンクは彼にとって可愛いらしい。
きっとそんなところまで、好きな部分のひとつ。
みどり色、斑点模様、濃い茶色…3色の猫を彼はびっくりするほど丁寧に味わいながら時間をかけて飲み込んだ。
涙が落ちた。
昨日から涙腺が緩んでいたから仕方ない。
「……なんかおれまで泣きそうになるからやめてほしいんだけど」
「ごめんなさ…」
すっと指がまぶたを撫でてくる。ざらざらしていた。クッキーのかす、ちゃんと払ってから触ってほしいなんて贅沢は言わないよ。
揺れる視界。
その先で困ったように笑う影。
機嫌が良かったのかな。わからないけど、予想していた反応とはかけ離れていたせいか、感動して、涙が止まらない。
「…好きです」
思わず溢れた気持ちを彼がすくうことはない。
「あっそ」
それでもいい。けっきょく、いいって思ってしまう。
「小腹空いてたからちょうど良かったよ」
そうつぶやいてわたしの手から蓋を取ると、そのままあのスニーカーを履いて行ってしまった。