おそらくあれだ。会えてなかっただけでちゃんと学校には来ていたみたい。

予想通り、わりと早く彼はこちらへやってきた。


大きく息を吸い込む。

舞菜が手を握ってくれた。



「晴臣先輩!」


少し離れた場所にいる彼に呼びかけると弾かれたように顔を上げた。目をまるくして「まきの、」と口を象かたどる。

それだけでたまらなくうれしい。

久しぶりに会えたことに、感動さえ憶える。

どうしようもない。


「お久しぶり、です」

「…ああ、そうだっけ」


とぼけたフリ。本当にわたしと最後に会った日なんてわすれてるのかもしれない。


「そうなんですよ。それで、あの、今日はこれを、持ってきたんです」


頼まれてない。だからそう突き返されるかも。

想定しながら、なるべく浅い傷で済むように、予防線を頭に張り巡らせながらタッパーを胸に押し付ける。

彼はそれを受け取った。


「何これ」

「えっと、甘いクッキーを…作ったのが余ったので!」


余ったなんて言い訳をするには相応しくない量が入っているけど、恥ずかしくて晴臣先輩へ作ったとは言えなかった。

それでも心臓がせわしなく音を立てる。


要らないって言われたら仕方ない。

不味いって言われたら仕方ない。

投げられても仕方ないよ。大丈夫。会えただけでいい。