…ぴりっと痛い。


「避けろよバスケ部。鈍くせえな」


そう言う彼はビタミンドリンクをかぶっている。バカなの?

すぐ近くにあった蛇口でハンカチを湿らせて差し出す。受け取らないから仕方なく手を伸ばして髪や頬、首を拭いてあげた。冷たそうに目をとじて、なんだか猫みたい。



「晴臣先輩こそ避けなよ。不良のくせに」

「さっきから生意気。もっと恐がれよ」


投げ損だね。でも、恐かったよ。わたしに向かって投げたのかと思ったもん。

だけど避けたら認めてもらえないでしょう。むしろバスケ部で鍛えているから避けなかったのかも。


近い距離。

このまま抱きしめたら、どんな反応する?

なんて、すぐ傍にいるのに触れたら本当に嫌われそうで、彼がもっと自分を傷つけそうで、できない。



「晴臣先輩……好きです」



向き合った瞳がわたしをとらえた。そのすぐ手前からある底の見えない黒い闇に飲み込まれそうになる。

彼の手がわたしの頬に触れ、ぐっと力を込めてそこを拭った。


親指に血がついてる。

それを晴臣先輩は舐めとって、おいしくなかったのかちょっと笑った。


「おれはやめとけ。望み通りにはしてやれないから」


わたしの望みなんて知らないくせに、解ってるみたいな顔で背を向ける。

そういうところが腹が立つの。


ねえ。それなら、晴臣先輩の望みは何?