「稲場にすごい止められてたな」
すっかり足の痛みも引いて部活に参加できるようになった。
休憩時間に水道前で高薮くんと鉢合わせると、お疲れさまの後にそう言って少し笑われた。
舞菜の声って通るからたぶんクラス中にわたしの気持ちは知れ渡ってると思ってはいたけど、こうしてはっきり示されると気恥ずかしいね。
「晴臣先輩のうわさってあまり知らないの。高薮くんは聞いてたりする?」
「まあそれなりに。けど結局他人が見たことを信じるより自分が見たものを信じたほうが納得いくよな。たとえうわさが悪くても槙野が好きだって思うものがあるならそれのほうが大事だと思うよ」
そう言われて、自分の気持ちが少し正しくなったような気がした。
「あ、べつに稲場の意見が悪いってことじゃないけど」
「わかってる。ありがとう…ねえ高薮くんは好きな人いるの?」
応援したいな。恋を知ってるような口ぶりだった。
「俺は小学生の頃からクラスの松渕さん」
さらりと、隠す素振りもなくつぶやいた。
松渕結香子ちゃんはとても頭が良い印象。吹奏楽部。どちらかというと大人しいけど、派手めな佐伯さんと小学生の頃から幼なじみみたいで仲良くしてる。
舞菜もわたしもあのグループとはあまり関わったことがない。