それはきっと幸せなことのように思う。


「全然放っておける感じしないんだけど」

「まあ…できれば、無視だけはしないでほしいですね」


彼は苦笑いを浮かべる。

願わないって思ったけどやっぱり考えてしまう。どうしたらこの人と心を通わせることができるだろう。

せっかくすっきりしても悩みは尽きないらしいから本当に面倒だなあ。



「槙野」


「はい」



彼は何も見えてないかのような黒い瞳でこっちを見つめてくる。

晴臣先輩に何かしたい、なんておこがましいよね。だけどこんな表情を見たら誰でも思ってしまいそう。


伸びてきた手が回り後ろ髪に触れ、撫でる。



「痛くしてごめん」


────… この人のことが、好き。


「大丈夫です。強いので」



簡単には傷つかないですよ。


「ならこれからはもう何しても謝らないから」

「上等です」

「あっそ。…じゃ、しばらく安静にして」

「手当てありがとうございます」


無視しないでって言ったのに返事はもらえなかった。


ドアを出ていく背中が愛おしいなんてどうかしてる。気づかないほうがきっと良かったんだろう。

だけどわたしがあの人に恋をすることについてを本当の意味で理解し、後悔や怒り、コントロールできない気持ちと対峙することになるのはこれから先のこと。