小学生から中学に上がり、6か月が経とうとしている。

授業ごとに先生が替わることや給食ではなくお弁当を持参するようになったこと。私服から指定の制服になったこと。クラブではなく部活動と名前が変わって、入部したものによって活動日が違うこと。クラスだけじゃなく部活動や委員会でも交友関係ができること。


彼と出会ったのは、そんな変化に慣れてきた頃だった。



「なあちょっとこれ持ってて!」


砂埃が舞う中、ライトブルーのスニーカーを履いた知らない人が声をかけてきたと思えば、学校指定の運動着ではないTシャツを放り投げてきた。


目の前には初めて見た父や弟のものではない男の人の肌。

突然のことに無心で手を伸ばしてキャッチすると「よろしく」と彼は笑ってまたグラウンドへ駆けていく。



隣にいた友人の稲場 舞菜(いなば まいな)が「おみ先輩だよっ」と跳ねるような口調でわたしの身体を揺さぶる。


その人はわたしたちにとって初めての体育祭で、おそらく1番活躍していた。騎馬戦もリレーも障害物走も、速く、たくましく、強く貢献していた。


預かった白いTシャツから、お日さまの匂い。


太陽に向かって笑う表情に釘付けになって、心臓が高鳴る。そんな感覚は初めてで戸惑いだけを残したまま体育祭は終わった。