頭をこつんと叩かれる。


「勉強だけは裏切らないからやってきたんだよね」


裏切る、という概念がなかったわたしはその発言に戸惑った。誰かや何かが裏切るとか裏切らないとか考えたこともない。

この人はそういうことを考えて生きているんだろうか。


「どこの学校を受けるんですか?」

「ないしょー。受からなかったら恥ずかしいから」

「…かっこつけだ」

「ずっと思ってたけど、槙野、生意気」


そう言うわりには笑っている。怒ってはいなそう。もしかすると気分屋さんなのかもしれない。

名前、覚えててくれた。


「湿布してテーピングで大丈夫そうだな」


もう一度つむじがこっちを向く。

足を洗いたい…恥ずかしいのはこっちのほうだ。


「テーピングなんて出来るんですね」

「けがが絶えない生活してるからねー。いちいち病院とか面倒じゃん」


病院に行くまでのけがをしたことがないから面倒なのかもわからない。

昨晩むだ毛を剃っておいて良かった。足の爪に色をつけておけば良かった。だってふつうこんな状況になるなんて予想もできないよ。

探すといなくて、不意うちに目の前に来る。

心臓に悪い人だなあ。


「できたよ」

「ありがとうございます」


なんだか足首がこの人に守られている気分。