あの担任が言う通り、あいつは優等生で。
大人びていたあの頃に相応しく大人になっていて。
──── 変わってないわけないだろって何度も引き返そうとしたけど、それでも、…会いたかった。
かわいくねーのに、まぶしくて。
わすれんなよって思いながら傷つけて、泣かせて。
年月経ってもこんなところまで追いかけて。
「…晴臣先輩、あまり、じっと見ないでください」
やっとこっち来た。
でもこっちは向かない。代わりに、赤く染まった小さな耳が見える。
かわいくねーのに、なんでかわいく見えるんだよ。
中学の頃から、ずっとそうだった。
「今までのぶん、補充してんだよ」
「ほ、補充って…」
「陽花里も補充すれば?けっこういつでも空いてんだけど」
絵本作家って基本家で仕事するし。
そう付け足すと、ぽかりと、痛くないちからで叩かれた。
「先輩、変わった…!」
変わってねーよ。
「おれだって素直になってもいいだろ」
「う…ええ……」
「やなの?」
槙野陽花里は、中学の頃も、あの夏も、今も、泣きそうな顔でおれを見る。
こいつがモテようが、彼氏ができようが、夢を持ちようが、生きようと決めても、こいつにとって、おれが一番特別なのが、この顔でわかる。
「や……で、は、ない、です、けど……慣れません」
「そのうち慣れるだろ。これからは一緒にいるんだし」
「いつもそうやって勝手に決める…っ」
「言っとくけど、これしつこくされたぶんの仕返しだからな」
「しつこくしてよかったです!」
「なんなのおまえ……」
でもまあ仕返しても、泣かせても、槙野陽花里には一生敵わないんだろうけど。
とりあえずバイトが終わったら、あの男がなんなのか絶対に聞く。
その1、おしまい。
(こんなに幸せな仕返し、ある?)