槙野陽花里は中学の頃からモテていた。

同級生の高藪くんも然り、おれに引っ付きまわってたやつらも然り……あの頃中学生にしてはどこか達観していて、大人びていて、まっすぐきれいに伸びた長い黒髪が白い肌に映えていて。


とにかくモテてたけど、あいつはおれを好きだったから近づくやつはヤマと高藪くんくらいだったと思う。

だからまさか、こんなふうに大人になってから目の当たりにするようになるとは思いもせず。


「ひーちゃん、こっちにもおつまみ持ってきてー」
「ひーちゃんのピアノ聴きにきたよ」
「マスター、ひーちゃんコキ使っちゃダメだぞー」



あの夏に行った島が見える丘の上にあるカフェ。夜はレストラン。

その店でバイトをしている槙野陽花里は、店の角の席に座るおれに見向きもせず他の客を相手にしている。

可愛がってもらってるらしく、ひーちゃんひーちゃんって……ひーちゃんってキャラか?


正直言って中学の頃、槙野陽花里はそれはもうしつこくて、うざったい存在だった。


こわがらせてびびらせて離れさせようとしてもめげず、別の女と付き合ってもめげず、関わるなと言ってもめげず…どこまでもどこまでも現れる。


担任はあいつのことを優等生だと言っていたけどどこがだよ。ぜんぜん言うこと聞かねーの。

本当にかわいくねー。ひーちゃんってなんだよ。