お砂糖よりいちごとバナナとオレンジでできたシロップを合わせたものが彼女の舌にはよく馴染むみたい。

甘いものが好きだったあの人にもいつか飲んでもらいたいな、なんてささやかなことだけが今の願いだなんてちょっと情けない。


「ねえ陽花里ちゃん、そのおふたりはいつ頃に結婚されたの?」


マグカップに口をつけた後に指差してきたのは以前この場所で開かれた二次会パーティーの集合写真。


「2年前ですかね。ふたりとも中学の同級生で」

「微笑ましくてお似合いねえ」


うん。わたしもよくそう思っていた。


次はわたしの番だと結香子と高藪くんから渡されたブーケは、あの思い出のスカーフを背景にして押し花にして額に飾っている。

高藪くんが体育祭で器用に次に繋げていたリレーのバトンみたいには上手くいかなくて申し訳ない。



「陽花里ちゃーん!お店いったんクローズして!あ、羽田さんはゆっくりしてていいですからね」


マスターに返事をして鍵を持ってウッドデッキへ出た。

店の看板に立てかけられたフダを「In preparation」にする。戸締りをしてこれからディナータイムの支度をはじめるんだ。


生まれた街からあの島が見える街へ移って4年が経ち、今は丘の上にあるカフェでアルバイト中。

就職は少しだけしたけど、紅茶やコーヒー、お菓子を作るほうが気になってしまって、アルバイトをしながら資格をとってあの夢のために準備をしてる。



「もう終わりですか?」

「はい。でもまた18時からディナータイムですので……」


何気なく顔を上げて、映り込んできた姿にはっとした。


「久しぶり」


なんてことない、だけどあの頃は似合わなかった大人みたいな笑顔でそうつぶやく。


緑がかかった茶色い髪は少し短くなっていた。

心臓が高鳴る。

声ってどうやって出すんだっけ。

涙の流し方は忘れていなかったみたいで、意思を持つ前にぽとんと落ちてきた。