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「え!じゃあ陽花里ちゃんはその愛する彼ともう8年も会ってないの!?」
一番の恋はいつだったのかと聞かれて思い出話をするみたいに自分のことを語ると、静かに聞いてくれていた相手は終わりを待っていたかのように目を丸くして身を乗り出してきた。
その拍子に車椅子と横のイーゼルに立てかけられていた画用紙が揺れて、わたしは彼女の宝物のほうを受け止める。
慌てて彼女のほうを見ると机にしがみついていた。転ばなくてよかった。やっぱり似ているのか、反射神経とか運動神経は潜在的にあるらしい。
「もう、おどろきすぎですよ。良いことなんです。彼が此処に来ないことは」
きっと晴臣先輩は、つらいことがあると、全く上手じゃないけど甘えにくる。自意識過剰だって怒るかもしれないからあの時返事も聞かずに去ったけど、さすがにあんなタイミングで会いに来られたら自意識過剰にもなるよ。
「えええ…でもお……。まあ、私的にはね、助かってるけれど」
「どういうことです?」
「だって私のお気に入りのモデルさんのこーんな儚くて美しい表情をつくっているのはその彼のおかげだってわかったから」
そういたずらっ子がする笑みをして、また手を動かしはじめた。
今描いてるものはまだ見せてもらっていないけど、きっとえんぴつの線に、ところどころだけ色が塗られたわたしを描いた絵。
懐かしくて、でも絵のモデルになんてなったのは初めての経験だから新鮮で気恥ずかしい。
「いつまでわたしのこと描くんですか?もう5枚目ですよね」
「ふふ。どうしよう?本当に彼が迎えにくるまで描いちゃおうかなあ…陽花里ちゃんのこと大好きだから飽きなそうだし」
「それは…永久に描き続ける羽目になっても知りませんからね」
語らなきゃよかったかも。完璧にいじってきてる。
逃げるように立ち上がって、空いたマグカップにふたたび甘いハーブティーを淹れた。