今でも、晴臣先輩の闇に飲み込まれそう。

そうなればいいと思っているわたしが一番、深い闇を持っている。

そう思いたい。

闇がないと、この人に構ってもらえなくなる。

わたしには闇がある。


あの頃から願い続けていた、彼を救うとか孤独から抜け出してもらいたいとかはもう描けない理想の物語。



「槙野が傍にいたら、いつか父親のことなんてどうでもよくなる気がして。そうなりたくなかったんだ。ごめんな。おれにはそれしかなかったんだ」


誰も、何も、これからも彼を救えない。

きっとたとえお父さんを殺せていたとしても。


「晴臣先輩はあの頃わたしのことは必要ないって言ったけど……本当はずっと、今でも、必要としてくれてますよね」



わたしがいる意味があった。

それは悲しい色をしていたけど、特別な意味。


「わたしがいなくちゃだめなら、そう言って」


そうしたら全部を裏切れる。捨てられる。あなたに捧げられる。理想に飛び込める。


「言わない」

「どうしてっ…」

「この前教えてくれた、槙野が思い描いた未来。おれも見てみたいから」

「っ、」


「槙野には他にもたくさん大切なものがあるし、そのことを見失なうような性格もしてない。それでいいんだよ」


彼は孤独から抜け出さない。歩いていく。そっちを、選ぶ。


「おれさ、槙野の涙、好きだ」

「…っ」

「笑ってるのも、ふてくされてるのも、追いかけてくる足音も、綺麗に伸びた髪も、あたたかい手も、やわらかい口も、正直な言葉も、……ぜんぶが、好き」


恋をしていた。届かない人に。