すべてこの人のせいだ。
この人も晴臣先輩のお母さんもこの人の奥さんもそう。身勝手な人たちのせいで、彼は罪を犯した。
わたしはポケットの中から晴臣先輩が残した刃物を取り出して鋭い先を彼に向けた。
周りのざわめきが聞こえる。止めてこようとする人に「近づかないで」と脅しをかける。
「あなたのことが、大嫌い」
わたしが恋をした人のことを孤独にした人。
「槙野、おまえにはできないだろ!そんなもの人に向けんな!」
「高薮くん。確かにわたしにはこれ以上のことはできない…だけど……」
手が震えている。自分の中の狂気が晴臣先輩への気持ちと混ざって溢れているのがわかる。
「だけど、これ以上の気持ちで、晴臣先輩のお父さんにこれを向けてるの……!」
できることなら、わたしが。
だけどできない。どうしてもできない。
味方になりたいのに、それは味方になることじゃないって、思ってしまう。
「晴臣先輩のことが、わたしは大好きです」
たとえ会えなくても、離れていても。味方になる方法がいつまでもわからなくても。
「だからあの人が生まれてきてくれて、わたしはとてもうれしい…」
刃物をかばんにしまう。
震えている手を高薮くんが包み込んでくれた。
「あなたのおかげで晴臣先輩がいることがくやしい」
晴臣先輩を苦しめる存在。嫌いな人。それなのに、どこかで感謝してしまうんだ。
「あの人はあなたの汚い部分なんかじゃない。もうそんなふうに見ないで…晴臣先輩自身を、見てください」
返事を聞かずに病室から出た。
泣いてしまったわたしを、胸にしまってくれる高薮くん。
わたしはこの人のこと、このまま大切にできるのだろうか。このまま一緒にいて、それは甘えにならないのだろうか。