「未 遂………?」



人が絶望に染まる瞬間を、初めて見た。




澄んでいるはずの島の空気が、昨日とは全く別のものになっていく。


「ああ、危ないところを奥様の応急処置が良くてね、一命をとりとめたよ。…ほら歩いて」


行かないでと必死に掴んでいた手は彼の意思でいとも簡単に振り払われ、その手は警官の胸倉を掴んだ。


「未遂ってなんだよ!良くねえよ!何も良くねえんだよ!応急処置って…あの女ふざけんなよ!死んでほしいんだよ!生きてんじゃねえよ……おれは、殺したかったんだよ!!」

「落ち着きなさい!」


「なんで……なんで希雨さんは、許せるんだよ……っ」



晴臣先輩の涙が、何粒も頬を伝う。


崩れ落ちる身体を抱きしめようとしたら警官が割り込んできた。



「離して…」

「近づいちゃいけないよ」

「離して…っ、晴臣先輩…!嫌!そのまま連れてかないで!ひとりにしたくないの…待って…晴臣先輩の望みを叶えてあげてよお……!」



それで救われるなら、それが正解でもいいじゃない。

引き離されて、手が、届かなくなっていく。されるがままの彼と違ってわたしは必死に抵抗した。


「晴臣先輩……!!」


遠ざかっていく。行かないで。いつもこうなる。守りたいのに。笑っていたいのに。別れなんてこないよう、フツウになりたいだけなのに。

引き離されたその距離はまるでわたしたちの名前のない関係をかたちにしているようだった。