晴臣先輩の後ろで、欠けた月が強く光っていた。



「おれと一緒に、死んでくれない?」




一緒に、と言っているのに、孤独を感じる台詞だった。

心臓も、思考も、どこもかしこも落ち着いていた。それなのに握った晴臣先輩の手は震えていて、涙が出そうになる。


晴臣先輩は、恋人でも友達でもただの後輩でもなく、その存在としてわたしを選んだみたい。

それはこの世で一番、格別で、特別なもののように思えた。この人にとって意味のある存在な気がした。


膝のスカーフを細く折りたたみ、重なったふたつの手首に巻いた。はぐれないようにとたくさんの力を込めた。


「…来てください」


ふたりで立ち上がる。

雲が出てきたのか、星が隠れていく。すると夜空は海の闇と混ざり合った。


波の音だけを頼りにして前に進む。



「晴臣先輩」


最初から付いてくることも、その望みを飲むことも、彼は見透かしていたと思う。



「わたしは、いつまでも、今までも、これから先も、今も、何があっても、──── 晴臣先輩の味方です」



大好きだった人。
憧れていた人。
焦がれていた人。

かたちを変えていったけど、変わらなかったこともたくさんあるの。


どうして死にたいのか聞いたら、きっと理由を全部だって答えるような人。

これ以上傷ついてほしくない。