同じ想いにも望んでいた関係にもなれなかったけど、それでも、晴臣先輩がわたしのことをちゃんと見ていてくれたことくらいわかってた。
わたしだってちゃんと見ていたから。
「知られてたか。やっぱり、槙野はおれのことすげー好きでいてくれたんだな」
ぜんぶ過去のこと。
ふたりで過去にしてきたこと。
「そうですよ。そっちこそ光栄に思ってくださいね!」
「ぶはっ」
今、冗談交じりに笑って話せていること。
こんな日が来るなんて思っていなかったよ。
お手洗いから戻ると晴臣先輩はお会計を済ませてくれていた。
「ごちそうさまです」
「いーえ。うまそうに食べるから楽しかった」
楽しかった、だって。
全身から棘が生えてるみたいだった彼が、楽しかったらしい。
「きみたちカップルさんかい?」
店員のおばあちゃんに声をかけられて慌てて首を横に振る。
「違います。フラれちゃってー」
フラれっぱなしなのはわたしのほうなのに彼が泣きまねをしながら言うから横っ腹を突いた。くすぐったそうにする。
「そうなんかい。べっぴんさんやしねえ」
「い、いえそんな」
「宿はあるんかい?次のフェリーは明日の朝だに」
あ、そうなんだ。というか、いつまで此処にいるんだろう。いられるまでって言ってたけど…。