この海鮮丼と違って、きっと手に入らないってわかってる存在。


「こうして向かい合ってごはんを食べるなんて、すごいことをしてる気分になります」

「あー、おれら、意外と何も一緒にしてないよな」

「だって晴臣先輩、あの頃全然わたしのこと構ってくれないんですもん」


今だってそう。またいついなくなっちゃうかわからないから、必死に、うれしいことや楽しい気持ちを伝えようって思ってる。

傷ついてなんかないよって。

今でも大切な人だよって。

伝わってほしい。


それで晴臣先輩の傷を少しでも和らげられたらいいのに。



「……学園祭で槙野のクラス、校庭に大迷路作ってたじゃん」


晴臣先輩の最後の学園祭のことだ。


「おまえと高薮クンが一緒にまわってんの見て、おれがもしフツウだったら、あんな感じになれたのかなーって思ったんだよね」


切ない吐露。

感動するほどうれしいのに、あの頃のようにくるしくなる。

フツウだったらって。

だったら、フツウになってくれたらよかったのに。

わたしのことで思考を、心を、いっぱいにしてくれたらよかったのに。


あの頃のわたしはそうだったよ。

同じ気持ちになれていたら、今頃、手をつなぐことも笑い合うことも当たり前の日常になっていたかもしれないのに。


「そうやって頭のなかではいつも構ってたかも」

「それ…知ってました、きっと」


わたしの気持ちを晴臣先輩が知っていたように、わたしもきっと気づいていた。