「腹減ってきたな」

「この島は何が名産なんでしょうかね」

「海鮮。食える?」


頷くと彼がわたしの手をそれが当たり前かのように取り歩き始めた。

つめたい手。広い手のひら。

離さなきゃいけないんだろうけど、どうしてもできない。

この手の間に、もう恋はない。

わかっていてすがりたくなる。身勝手だって周りから言われたとしても。



2,000円もする海鮮丼を晴臣先輩は勝手にふたつ頼んだ。びっくりしていると「おごり」と笑う。

そんなつもりはなかったけど、自分で払うならもう半分くらいのものを…と思っていたからお言葉に甘えることにした。


「海鮮丼って宝石みたいですよねっ」

「ぶはっ。なにそれ、光って見えるってこと?」


目の前に届いた立派なそれを眺めて感動していると笑われた。なんだか今日はたくさん笑ってくれるなあ。


「はい。輝かしい!」

「おれはおまえの方がきらきらして見えるよ」


……さ、さすがに今の言葉はずるい。

まずきらきら、とか言う時点で可愛いのに、ずるい。心臓がくすぐられたような感覚。


「い、いただきます」


そうつぶやくのが精いっぱい。

わたしだって、今も前も、晴臣先輩のことはきらめいて見える。

はじまりのTシャツみたいに真っ白で、明るくて、まぶしい。