彼は隣に立ち微笑んだ。
何も見えてないように思っていた瞳にわたしが映る。あの頃にはなかった温度が、深く、幼く、感じられた。
「真ん中だったよ」
わたしもです。
「あの日Tシャツを預けたのが槙野陽花里で、本当によかった。会わなかった毎日でそれを思わなかった日はない」
それは、恋した意味だけじゃなく、生きていた意味も感じられた気がした。
「わたしは、ちゃんと晴臣先輩に会いたかったです。会いたいって考えなかった日は…なかったです」
ぎゅっと手を握る。
どうか、いなくならないで。
逃げていかないで。
消えないで。
もう、あんな悲しい別れは嫌だ。
「だから、会いにきてくれてうれしかった。バイクの後ろに乗せてくれてうれしかった。わたしの名前を呼んでくれて…存在を残して、思い出してくれてたなんて…本当に、光栄です」
「光栄って。槙野はやっぱりおもしろいな」
冷たい手のまま。
だけど、これが晴臣先輩なの。
わたしが、大好きで、大切で、ずっと願っている人。
心の底から願ってる。
晴臣先輩が孤独から抜け出せますようにと。
彼の目の前にあたたかな光が現れて、それを抱きしめて、誰かに優しくできたと思えるように…笑顔になれるようにって、願ってきた。
会えない間、ずっと。