フェリーは室内に入ることはなく、初夏の海風を浴びながら空を眺めた。


「見てください晴臣先輩!鳥が追いかけてくる!」

「あ、本当だ」

「何か食べ物持ってくればよかったー」


綺麗な白の羽根。

泳ぐみたいに空を飛んでいて眩しい。


「こんな綺麗な鳥は初めて見ました!船もぜんぜん大丈夫です!」

「ふうん。よかった」


一言ひとこと、つぶやかれるだけの言葉の隅々までうれしい。

ずっと会いたかった晴臣先輩と一緒にいる。



いろんな人の心配と許しを経てのこの旅は、思えばあの頃から願っていた時間な気がする。晴臣先輩と一緒にいたい。一緒に。

できれば沢山の話がしたい。ううん。話さなくてもいいから、晴臣先輩に寄り添いたい。


大切にしたい。

守りたい。

その気持ちは変わってないって気づいた。



「槙野は、会わなかった間どんなふうに過ごした?」


わたしのことを訊ねてくる。新鮮。だけど相変わらず曖昧な質問。

どんな答えを望んでるのか、探りたいのにわからない。わからなくて、結局いつも問いかけに本当のことを話してしまう。


「晴臣先輩が卒業してからは、とりあえず勉強に没頭しました。あと部活動を真剣にはじめたんです。中学はあの後1年半、吹奏楽部でキーボードとかピアノ担当でした。たまにフルートを教えてもらったんですけど、あれは扱いが難しかったですね…最後まで仲良くなれませんでした…」