「行きたいところがあるんだ」
「一緒に行かせてください」
「泊まるし、おれはあの頃と違うよ」
違うのかな。
「連絡だけさせてください」
「…わかった」
ひとまずお母さんだ。
「何泊になりますか?」
「いられるまで」
つぶやくみたいな曖昧な返事。仕方ない。何処かは何となく聞けないまま、お母さんへ連絡を入れる。
中学の頃に好きだった先輩と、しばらくだけ出かけてくる。それだけ伝えると「何かあればすぐに連絡しなさい」と言われた。わたしが不完全なまま恋を終えて、空っぽのような日々を過ごしていたこと、知っているからだ。
今度こそ後悔しないように、と念がこもった声だった。
そして、もうひとり。
「高藪くん。…ごめんなさい。晴臣先輩の用事に、しばらくだけ付き合わせてほしい」
優しくしてくれた人へ。
無言が続く。
「何かあったら、必ず連絡する。約束するから…お願い」
「………迎えは俺に行かせて。場所がわかったら教えて。どうせいつか話してくれた時みたいに、何処に行くかは知らないんだろ?わかったらでいいから。帰るってなった時、その時だけは、一緒にいないで」
胸が詰まる。わたしだったら、嫌かもしれない。高藪くんが別の誰かと…恋をしたことがある人と、何日か一緒にいるなんて。