あの頃と同じ、煙草とお日さまのにおい。

懐かしくて。だけど忘れていなかったことを思い知らされて、涙がひとつ頬を伝う。

背中に寄りかかると心臓の音がした。晴臣先輩が、此処にいる。触れている。それだけで胸が千切れそうなくらい切ないよ。


バイクは高速道路へ続く国道の陰で停まった。

彼が降りるからわたしもそうする。

タンデムシートから取り出したフルフェースのヘルメットを渡された。



「なんで来たの」


第一声がそれ。無理に降ろすこともできたはずなのに、今更だ。


「晴臣先輩こそ…何しに来たんですか?」


声が震える。

だって本当に晴臣先輩がいるんだもの。

恋い焦がれて仕方なかった人が、目の前にいる。叶わなかった人。救われてほしいと、誰に向けるより思っている人。


「ヤマが、あんたはあの学校に通ってるって連絡入れてくるから…」


感動しちゃう。


あんなに遠くにいた人なのに。



「わたしに……なら、なんで会わずに帰ろうとしたんですか?」

「会わないほうが本当はいいんだろうって思ったから引き返そうとしたんだよ。なのになんで…槙野、来ちゃうんだよ。もう関わるなって言ったじゃねえかよ」


何のために会いに来てくれたのかは知らない。


「身勝手すぎません?わたしは、ただ、ふたり乗りの約束を果たしてもらおうと思って。……話がしたくて、夢中で追いかけちゃいました」


会いたかった。ただそれだけ理解していればいい気がした。