会えたら何を話したいか、考えたことがある。何度もある。せめて笑ってくれたらいいなって思う。

高藪くんと付き合っているからかな。彼を思い出すたびに…あの頃と違う気持ちになっていることに気づいて淋しくなる。


淋しく思うことじゃないんだろう。

思い出に出来ている証。
だけど思い出にするには、何か足りないの。



教室で授業を聞いていると、突然外から大きな低音が鳴り響いた。

教室がざわめき出す。

聴いたことがある、排気音。


心臓が乱れた。


そんなこと、あるわけない。


だってあの日から、会いたくても、会わなきゃいけないような気がしても、会えなかった人。


廊下側の席から立ち上がり、恐る恐る、だけど駆け足で窓に近づく。外を覗くと大きなバイクが1台止まっていた。


嘘だ。

嘘じゃない。

まぼろしだ。

まぼろしじゃない。

夢でもない。

現実?

現実だ。


あの頃より伸びた、緑がかかった茶色の髪が風に泳ぐ。

そんなはずないのに、彼がこっちを見た気がした。



「………っ」


今度こそ、背中は見たくない。


「待って陽花里!」


舞菜が腕を掴んで引き留めてくる。振り向くととても心配げな表情。


苦しいって叫ぶような排気音。

間違ってることくらいわかってる。きっとわたしたちは会っちゃいけない。

だけど今までも間違いだらけだった。


「大丈夫……落とし物を拾ってくるだけだから」


正解なんて要らない。