変わらない。いや、変わっているのかもしれないけど、姿を見るだけでは何もわからなかった。
「今朝のニュースみた?あの人の家、ちょっと大変みたいだね」
高藪くんから電話がきたのは1限目が終わった後だった。
「…うん。でも大きな会社だし、大丈夫じゃないかな」
「夫人が倒れたって話は?事実確認はできてないみたいだけど」
久遠グループの違法業務がクローズアップされたニュースが今朝流れた。あの、彼を育てた人は過労で倒れたって記事も読まれた。
ヤマ先輩からは「家行ってみる」とだけメッセージが入ってたけど、マスコミが押し寄せている中継も見た。あれは会える状況じゃないと思う。
「わからないけど…心配だけど、いいよ。気にしてたらキリがないもの。それより明日楽しみにしてるね」
「あ、うん。何かあれば連絡して」
「わかった。ありがとう」
ありがとう。気にかけてくれて。
だけどわたしが出来ることは何もない。家も知らないんだもの。連絡先も知らない。ヤマ先輩でさえ会っていないのにどうしようもない。
時々、コンビニに行く。パプリカを買う。彼が吸っていた煙草の銘柄をなぞるように見てしまう。
ガゼボの公園にも行く。ピアノも弾く。泣いていた彼も眠っていた彼もいつだって思い出せるけど…会えない。