それなのに身体中の熱が冷めない。
かわいいなんて、気楽に言う。から揚げは美味しくできてただろうか。
「ご、ごめんね陽花里!」
晴臣先輩がいなくなった場所をぼんやり見つめていると舞菜が近寄ってきた。
「え?」
「こわくて助けられなかった…っ」
その一言と静まり返る教室の空気で、あの人のうわさ話が良いものではないことを悟る。腕を掴んできた舞菜の手は震えていて、さっきまでわたしもこうだったなあと思う。
「大丈夫だよ。…大丈夫」
こわいのは変わらないけど、もっと恐ろしいのは、そんなこわいものともっと話していたかったと思う自分のこと。
お昼休みが永久だったら。
あの友達が話しかけてこなければ。
考えてもどうしようもないことがぐるぐると頭の中を支配する。
とりあえずもうお弁当は片付けないと。
「いいよ、俺だけで準備してくるから」
高藪くんが言うから首を振る。
「ううん。…もう食べられそうにないから」
なんだか胸がいっぱいで。
こんなふうに心臓は動いているんだと、生きていて初めて感じた。
まぶしくて、痛い。
きっとこれは危険信号。
近づいてはいけない。ロクなことが起きない。あの人と関わったら傷つくことになる気がする。